全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
 その後、仕事を滞りなく終え、定時を幾分過ぎたところで会社をあとにした。

 駿二郎と会う日はたいてい同じ場所で待ちあわせをしている。
 会社から少し離れたダイニングバーがあるのだが、それぞれ仕事が終わり次第、そこで落ち合う約束なのだ。

 ゆっくりとした足取りでバーを訪れると、カウンター席にはすでに駿二郎の姿があった。
 今日は早いな。出先から直接来たのだろうか。

 長い足を組んで椅子に座り、お酒の入ったグラスを持つ彼は、絵に描いたような大人の男を演出していてカッコいい。


「お疲れ様。既婚者なのに色気がだだ漏れね」

「はは。そりゃどうも」


 否定しないのか。まぁ、それもまた彼らしい。
 妙に自信満々な男性を見ると私は引いてしまうのだけれど、駿二郎は例外で。逆に彼はそこが魅力だ。

 グラスビールで乾杯し、いくつかオーダーしたものを食べながら会話を楽しんだ。
 この店のガレットは何気においしい。 


「最近、仕事はどうだ?」

「特に問題はないよ。私のチームもいくつか企画案が出てるからまとめてるところ」

「そうか。郁海がいれば安心だな」


 駿二郎が少し垂れた目を細めながらやさしく笑う。私は彼のこの表情が好きだ。
 そして、仕事面で褒められるのもうれしい。もっとがんばろうと思えるし、その気持ちが成果に繋がっていく。


「そろそろ出ようか」


 グラスの中身がなくなったタイミングで、彼がそっと椅子から立ち上がった。
 このあとはホテル、というのがいつもの流れだ。

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