全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
 行為が終わり、彼の腕枕で余韻に浸る。
 不倫とはいえ、駿二郎はこういう時間も大切にしてくれて、ぞんざいに扱われたことは一度もない。

 こうしてくっついていると、とにかく心地いい。身も心も満たされる。
 だからこそ、ダメだとわかっていても離れられないのだ。


 ふたりでベッドに寝ころんでまったりとしていたら、彼のスマホが小さく着信を告げた。
 誰かがメールを送ってきたようだが、時刻は午後十時を過ぎているし、どうやら仕事の用件ではなさそうだ。

 だとすれば……送ってきた相手はおそらく、奥さんだろう。


「ちょっとごめん……」

「大丈夫?」


 彼は苦笑いの笑みをたたえて上半身を起こし、素早くメールを確認した。

 駿二郎の奥さんはよく出来た人で、彼がどんなに仕事で遅くなっても文句ひとつ言わない女性らしい。
 彼は“我慢強い”という言葉で表現していたけれど、私は“けなげ”なのだと思う。

 そんな人が珍しく連絡をしてくるなんて、よほどのことが起こったのかもしれないと嫌な予感がした。

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