全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「奥さんだよね? なにかあったの?」

「息子が熱を出したらしい。けっこう高熱で……」

「え?! すぐに帰らなきゃ!」


 駿二郎がスマホを握ったまま、眉をひそめて固まっている。


「郁海……すまない」

「謝らなくていいから。ここを出たら奥さんに電話してね」


 彼を急かしつつ、自分も大急ぎで衣服を身に着けてホテルを出た。
 大通りですぐにタクシーを捕まえる。
 そこに乗り込んだ駿二郎が、車内から申し訳なさそうに“ごめん”と合図を送ってきた。
 私は微妙な笑みを浮かべ、そっと手を振ることしかできない。

 お子さんは大丈夫だろうか。
 小さい子が急に高熱を出したら、奥さんはひとりで不安でたまらないだろうな。

 そんな想像をしてしまうと、さすがに罪悪感が湧いてきて押しつぶされそうになった。

 これも“不倫の代償”なのだろう。
 普通の恋愛ならば、こんな感情は抱かないのだから。


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