全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「お母さんがこういう反応をするのはわかってたけど、それでも今日は話そうと覚悟を決めてきた。ちょっと反対されたくらいであきらめられるなら、初めから付き合ってないわ。もう、私のことは放っておいて」

「郁海!!」


 私がイライラとしながらソファーから立ち上がると、母は怒りを込めて私の名を呼んだ。


「お母さんの望むような、良い娘にはなれない」


 私だって、魁から何度アプローチされても、年の差がある恋愛だからとずっと二の足を踏んでいて、ようやく腹を決めたのだ。
 本気で恋をするのが怖かった私が、魁とは真剣に向き合ってみたいと思った。
 母の横槍ひとつで崩れるような、そんな(やわ)い決心ではない。
 

「お姉ちゃん、落ちついて?」


 もう一度座ってほしそうに京香が私の腕を引っ張る。
 お正月に家族が集まった場を、こんな空気にしてしまったのが申し訳ないので、私はこのまま帰ることにした。

 甥っ子たちにお年玉を直接渡したかったけれど、京香に預けてリビングを出る。


「わかってないのは郁海のほうよ。なんにも見えてない」


 背中からはっきりと母の言葉が聞こえたものの、私は振り返ることさえせずに実家をあとにした。

 ……やってしまった。
 あとでお父さんと京香には謝っておこう。


『お母さんとちゃんと仲直りしてね』


 翌日、京香に謝りのメッセージを送っておいたのだけれど、返事の最後の一文がそれだった。
 母からなにを言われようとも上手に受け流してぶつかることのなかった私が、今回は真正面から跳ね返したので、妹と父はかなり驚いていたらしい。
 私はあのとき、ふたりの様子をうかがえるほど気持ちの余裕がなかったのだけれど。

 たしかに母と長きに渡っていがみ合うのは私も望んではいない。
 この件に関しては母が折れてくれるのを願うばかりだ。

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