全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
***
一月も下旬を迎え、一年で一番寒い季節になった。
仕事を終えて駅に向かう今も、外気が冷たくて自分の吐き出す息が白い。
結局母とはあれから連絡を取らずじまいだ。
向こうも電話などしてこないので、こちらも自然とそのままになってしまっている。
絶縁するつもりはないが、距離を置いている状態もいいかもしれないと考え始めていた。
もしも実家暮らしだったなら、母と毎日顔を合わせるのはしんどかっただろう。ひとり暮らしはこういうときには気楽だ。
「あ!……あなたは……」
もうすぐで駅の改札をくぐるという手前の場所で、偶然そばに居合わせた女性が声を上げた。
どうしたのかとそちらに目をやれば、その若い女性にはどこか見覚えがある。
そして、彼女は私を知っているようだった。
「あなたですよね? 魁と付き合ってる人って」
「そう……ですけど……」
魁の名前が出たことで、一瞬にして私の脳が記憶の糸をたぐった。
思い出した。彼女は以前、この駅で魁と一緒に歩いていた女性だ。
「私、栗山 薫といいます。魁と同じ会社で働いています」
「あの、どうして私のことを知ってるんです?」
駅でふたりを見かけたあの日、私は声をかけなかった。
だから普通に考えれば、彼女が私を知るはずがないのだ。
一月も下旬を迎え、一年で一番寒い季節になった。
仕事を終えて駅に向かう今も、外気が冷たくて自分の吐き出す息が白い。
結局母とはあれから連絡を取らずじまいだ。
向こうも電話などしてこないので、こちらも自然とそのままになってしまっている。
絶縁するつもりはないが、距離を置いている状態もいいかもしれないと考え始めていた。
もしも実家暮らしだったなら、母と毎日顔を合わせるのはしんどかっただろう。ひとり暮らしはこういうときには気楽だ。
「あ!……あなたは……」
もうすぐで駅の改札をくぐるという手前の場所で、偶然そばに居合わせた女性が声を上げた。
どうしたのかとそちらに目をやれば、その若い女性にはどこか見覚えがある。
そして、彼女は私を知っているようだった。
「あなたですよね? 魁と付き合ってる人って」
「そう……ですけど……」
魁の名前が出たことで、一瞬にして私の脳が記憶の糸をたぐった。
思い出した。彼女は以前、この駅で魁と一緒に歩いていた女性だ。
「私、栗山 薫といいます。魁と同じ会社で働いています」
「あの、どうして私のことを知ってるんです?」
駅でふたりを見かけたあの日、私は声をかけなかった。
だから普通に考えれば、彼女が私を知るはずがないのだ。