全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「郁海さん、ですよね。魁が会社でしょっちゅう自慢してますから」


 恋人はどんな女性なのかと質問攻めにあい、魁が私の写真を同僚たちに見せているシーンが容易に想像できた。
 

「今、少しお話いいですか?」

「じゃあ……どこかカフェにでも」

「いえ、長く話す気はないのでここでいいです」


 彼女がそう言うので、ほかの人の邪魔にならない壁際に寄った。
 私だって、初対面のあなたとカフェで長話したいわけではない。
 人目もあるし、立ち話もどうかと思ったから提案しただけなのに。

 じっと私を見据える彼女の目が怖い。
 栗山さんは以前見かけたときと同じく清楚な雰囲気だが、今は無表情で、瞳の奥に敵意を感じる。


「失礼ですけど、郁海さんはかなり年上ですよね。いい歳をして若い男性とチャラチャラ遊んで、恥ずかしくないんですか?」

「…………」


 ここまでズバッと本音を言われるとは思っていなかったので、ビックリしすぎてしばし固まってしまった。怒りは逆に不思議と湧いてこない。


「私は魁と、浮ついた気持ちでいい加減に付き合ってるわけじゃないよ?」


 チャラチャラ遊んでいるというのは栗山さん自身の私感だ。
 魁が会社で私の話をしたとしても、そんなふうに伝えてはいないだろう。

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