全部欲しいのはワガママですか？～恋も仕事も結婚も～

「あなたも、魁が好きなのね」


　私とは初対面にも関わらず、彼女が交際について詰め寄ってくる理由を考えてみたのだが、出た答えはひとつだった。
　彼女も魁が好きだから、私を敵視していると捉えたら納得がいく。


「そ、そうです！　入社試験で初めて魁を見かけて一目惚れしました。あんなにカッコいいんだから、すぐに好きになってもおかしくないですよね？」

「そうね」


　魁は栗山さんのことをただの同僚だと私に説明していたけれど、彼女のほうはずっと前から魁に気があったのだ。
　あの魁が、女性にモテないわけがない。


「ふたりとも採用試験に受かって、最初の一年は一緒に働けました。でも彼は二年目からアメリカに行ってしまって、一年間離ればなれになったんです」


　まるで恋人同士が引き裂かれたような言い回しだが、ふたりが付き合っていた事実はないはずだ。


「私はずっと魁が帰ってくるのを待っていました。去年の夏にやっと告白したのに、好きな人がいるって言われて。どんな人なのか聞いたら、再会した初恋の人だ、って」


　とうとうとしゃべっている栗山さんの表情がだんだんと歪んできた。
　まずいな。こんな場所で泣かれたくはないのだけれど。