全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「フフフ。冗談よ。食べたことないものを作れるわけがないでしょう。今日は肉豆腐とコロッケ」

「ビックリした。でも私、どっちも大好きよ」


 コロッケか。この暑い時期に揚げ物をするなんて、母は偉大だ。
 私が帰ってくるからがんばったのかもしれない。頭が下がる。


 出来た料理を運び、三人でダイニングテーブルを囲んだ。
 ビールを飲みながら母の料理をいただくと、今日一日の疲れが取れるようだった。


「で、お母さん、話ってなに?」

「とりあえず食べましょ。ご飯がまずくなってもいけないし」


 自然な感じで本題を切り出したものの、母は首を横に振った。
 ご飯がまずくなるような話なのだろうか。もうこうなると嫌な予感しかしてこない。


「おいしかったわ。ごちそうさま」


 食事を終え、私が使った食器を洗っているあいだに、母が食後のアイスコーヒーを三人分淹れてくれていた。

 とにかく母の話を聞くまでは帰してもらえないので、覚悟を決めて再びダイニングの椅子に腰をおろす。


「今日呼んだのはこの話なのよ」


 母が自分の膝の上に置いていたA4サイズの封筒を、私の目の前に差し出してくる。

< 20 / 149 >

この作品をシェア

pagetop