全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「それにね、お見合いだけじゃなくて結婚相談所にも使えるわよ。プロフィール写真は大事だから」

「そんなに必死にならなくても……」

「親としては必死にもなる! 郁海、子どもを産むにしたってタイムリミットがあるのよ?」 


 母はかなり古い価値観を持った人で。
 今は多様性の時代だとか、いろんな生き方があっていいという意見を聞き入れるのは、どうしても難しいみたい。

 母からすれば、女の幸せは結婚と出産で、それがすべてだ。
 結婚できない人はかわいそうであり、“あえて結婚しない”人生などありえない。


「同級生はみんな結婚して子どもがいるでしょう? どうして郁海だけ三十七歳にもなって結婚できないのかしら。誰でもいいから嫁にもらってくれたらいいのに」


 母は自分の中にある当然の“枠”の中に、私をはめようと躍起になっている。
 そこから逸脱する人生は認められないから。

 母の“親として子を思う気持ち”はひしひしと感じるものの、結婚は相手がいないとできないし、こればかりはなかなか期待には応えられない。

 
「もうそのへんでいいだろう。郁海が嫌がってるじゃないか」


 父が助け舟を出してくれた。
 母はまだなにか言いたげだったが、父にたしなめられるといつもおとなしくなる。
 状況を見てバランスを取ってくれる父の存在は本当にありがたい。

「風呂に入ってくる」と椅子から立ち上がる父に、ありがとうと心の中で感謝した。

< 22 / 149 >

この作品をシェア

pagetop