全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「なにかあった?」

「まぁ、……ちょっとね」


 二十五歳は私にとって、人生で一番最悪な年だ。
 もしも私にタイムリープできる能力があったとしても、あの時には絶対に戻りたくない。
 
 当時の傷は痕になって残ってはいるが、時が経って完治したはずなのに、思い出すとまだ胸が少しだけチクチクと痛んだ。


「郁海の家族は仲がよさそうだったのに。そんなに深刻なことが起こったのか?」


 わかっている。魁は興味本位で面白がっているわけではなく、心配してくれているのだ。
 もう昔の話だし、隠す必要もないから、ここは思い切って話してしまおう。魁なら引いたりしないだろう。


「妹がね、大学四年のとき、卒業したらすぐに彼氏と結婚したいって言いだしたの。本当は学生結婚をしたかったみたいなんだけど、親に反対されるってわかってたから、卒業してからにしようって彼氏と話し合ったらしくて。それでもうちのお母さんは大反対だった」


 学生結婚なんかもってのほかだし、卒業まで待ったとしても、社会に出たばかりのひよっこが早々に結婚だなんて、と。
 母としては、社会人として何年か会社勤めを経験してから結婚してほしいという願望があった。
 
 妹の選択は、母の常識の“枠”から外れていたのだ。

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