全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「結婚、辞めたの?」

「うん。婚約解消!」


 とびきり明るい笑みをたたえてピザを頬張れば、魁は微妙な顔をして小さく息を吐いた。


「つらい思い出だな」

「でも後悔はしてないよ。妹はそのあと強行突破だったけど結婚できたし、すべて丸く収まったからね」


 “すべて”というのは語弊がある。
 母は未だに私と顔を合わせれば結婚しろとうるさくて、そればかり考えているもの。


「でもさ、こう言ってはなんだけど……俺からすればラッキーっていうか……」

「ん?」

「もし郁海が結婚してて子育て真っ最中だったら、俺とこうして飯食って話したりできなかったろ? 婚約解消の道を選んだから、俺との“縁”がまた繋がったんだよ」


 おどけて笑う魁を見ていると、私も気が抜けて笑ってしまった。

 もしもあのまま結婚していたら、私は今どんなふうに過ごしているだろう?
 小学生の子どもがふたりくらいいて、働きながら家族のためにご飯を作り、毎日必死でがんばっているのかな。
 いや、結局うまくいかなくて離婚になったかもしれない。

 人生には岐路があって、どう選択するかで行く方向が変わる。
 どちらの道に進むのが正解か、あらかじめわかっていれば失敗しないのに、そうもいかないのだ。
 だからみんな、時には迷うのだろう。

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