全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「とにかく、俺は郁海が独身でうれしいよ」

「ははは。うちのお母さんにその言葉を聞かせたいわ」

「俺……がんばる」


 なにを? と聞き返そうとして顔を上げると、意味ありげな視線で私を射貫いてくる魁に、一瞬ドキッとしてしまった。

 いつの間にかこんなに大人っぽい仕草をするようになった彼に、戸惑うばかりだ。
 

「これは、今初めて言うんだけどさ……」


 魁が爽やかな笑みを浮かべ、なにかをカミングアウトしようとしていて。
 私はなんとなく緊張して、目の前にあった水をひと口飲んだ。


「俺の初恋の相手は、郁海なんだ」


 中学一年だった魁が、大学生の私に恋をしていたなんて。
 微笑ましく思う気持ちと、気恥ずかしさが、胸の中でマーブル模様を描いた。

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