一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
「モリスエ・エレクトロニクス……」
「ごめんなさいね。プロジェクトは上層部だけで内密に進めていたから、あなたのご主人の会社だってわかってたんだけど言えなかったの」
清水の紹介だったから、ブラウン部長もおおよそのことは知っている。
紗羽も夫とは別居中だと正直に話しているし、夫の仕事内容も隠してはいない。
すぐに離婚が成立すると思って、部長にはオープンにしていたのだ。
ただ、三年が経とうというのにまだ離婚には至っていない。
清水に『慰謝料もなにもいらない』と手続きを進めてもらおうとしたが、匡が離婚を拒否して現在まで進展していないままだ。
「いえ、当然です。でも……別居中とはいえ、夫の会社が関係しているのに私が同行してもよろしいんですか?」
紗羽が会談の場にいたら部長に気を遣わせてしまうような気がしたので正直に尋ねた。
「あなたは私の秘書だもの。タイトなスケジュールになるから忙しいわよ」
「はい!」
ブラウン部長の答えは単純明快で、鷹揚に笑っている。その表情に嘘はない。
紗羽もホッとした。大きな仕事に関わることが許されるなんて、カナダにきたばかりの頃と比べたら夢のようだ。
「日本は久しぶり?」
「三年ぶりです」
「じゃあ、休暇もあげるわよ。せっかくだからダーリンに会ってくれば?」
何気ないひと言だったが、紗羽には大きな助言になった。
(そうだ。この機会に、キチンと離婚してこよう)
紗羽は覚悟を決めた。
中途半端な別居という形に、もう終止符を打ってもいい頃だ。
(三年経つのだから、匡さんもそろそろ再婚を考えるべきだわ)
紗羽の心はチクリと痛んだが、面倒な手続きになるかもしれないと億劫さを感じたせいにした。