一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ



匡が乱れている前髪をさらにかき上げた。少しイラついているようにも見える仕草だ。

「君が欲しくて、君を前にすると平静でいられなくて間違えてばかりだ……」

「え……?」

情熱的なキスの余韻で紗羽はクラクラしているが、彼の言葉は理解できた。

(私が欲しかった?)

彼の表情は夜の庭園ではよくわからないが、いつもの自信に満ちた顔ではなさそうだ。

「三年前も間違えてしまった。あの時は翔を殴るより先に、君に言うべきだった」
「それは……?」

匡からの視線が次第に熱をおびてくるのを紗羽は感じていた。

「勝手に側を離れるな! どうして黙って軽井沢に行った? アイツに嫉妬するより、君を叱ればよかった」
「叱る……」

彼から乱暴な言葉をかけられたことはなかったから、紗羽は驚いた。
高校の頃から匡に怒られたことなどなかったのだ。
匡はいつも優しくて、なんでも紗羽の言うことを聞いてくれていた。
大学生になっても結婚してからも、まるで真綿にくるまれているような過保護な日々だった。
あの日、もし匡が紗羽に厳しい言葉を投げかけていたらふたりの関係は変わっただろうか。

「年甲斐もなく、今さらカッコ悪いな」

三年前に言えなかった言葉を口にしたからか、匡は苦笑している。

「匡さん、私……」
「まだ名前で呼んでもらえて嬉しいよ」
「私は……あなたに誤解されて、あなたに嫌われたと思っていたのよ」

紗羽が絞り出すように言うと、匡はまた苦しそうな顔をした。
目の前の匡が、紗羽には別人のように思える。
こんな弱気な彼を見たことがない。
以前の彼は、紗羽から見れば自信に溢れていて力強くリードしてくれる人だった。

「言い訳に聞こえるかもしれないが、あの日は誤解というより嫉妬していたんだ」
「嫉妬?」

聞きなれない言葉に紗羽は戸惑いを隠せない。

「君は翔みたいなタイプと話が合うんじゃないか、君は翔といる方が楽しいんじゃないかってね」


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