記憶喪失のお姫様は冒険者になりました
その女将さんの発言はなぜクロさんが連れていかれたのか知っているような口ぶりだった。
私は女将さんに尋ねた。
「……どうしてクロさんは…連れていかれたのですか?」
私は虚ろな目で聞いた。
女将さんは少し戸惑っていた。
でも……。
「あんたは知ってると思ってたよ」
「え?」
女将さんは少し苦しそうにしていた。
そして少し間を空けてから、口を開いた。
「クロックスは、この前のドラゴンの件で王都に呼ばれたんだよ。きっとドラゴンを殺さずに逃がしたからだろうね…」
私はその言葉に目を見開いた。
ドラゴンを…逃がしたから?
「そん…な……」
ドラゴンを逃がしたのは私…なのに。
クロさんじゃないのに。
「クロさんは逃がしてはいません!私が逃がしたんです!クロさんは悪くはありません!悪いのは……全部」
全部私だ。
私がちゃんとあの時…ドラゴンを殺していたら……。
私があの時…動けていたら……。
ううん、違う。

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