ブルー・ロマン・アイロニー
「……大丈夫、だもん」
ひとりで大丈夫。いざってときは、いつもひとりで乗り切ってきたんだ。
自分の頬をたたいて活を入れたわたしはプリントを前に、よし、と呟いた。
ぱちん、とんとん、ぱちん、とんとん。
同じ動作を気が遠くなるくらい繰り返した。
とんとん、ぱちん、とんとん、ぱちん。
単調な作業に何度か眠くなってきて、そのたびに頬をたたいて目を覚ました。
教室がどんどんオレンジ色に侵食されていく。
夕焼けを見ても綺麗だと思えなくなったのはいつからだろう。
大切な人がいない世界で、美しく感じる景色なんて何一つなくなった。
いっそのこと夕焼けが腐った蜜柑のような色になってしまえばいいのに。
こんな鮮やかなオレンジ色の下に隠れている世界のほんとうの色は、きっとそんな汚い灰色なんだろう。
あちこちに工場が建ち、排気ガスに溢れ、
アンドロイドがはびこる世界。
────貴女がアンドロイドを所持していないからです。
「……アンドロイドなんて」
あんなもの。
欲しいと思ったことなんて一度もない。
あんなの、ただの機械だ。
金属の塊だ。
それにアンドロイドが安全だなんて、そんなの誰が保証できる?
わたしは変じゃない。
変なのは、アンドロイドを所有している人たちだ。
アンドロイドを当たり前に使っている人たちだ。
どうかしているのは、わたしじゃない。