ブルー・ロマン・アイロニー
やっぱりこれを綺麗だとは思えない。
たどりついたのは河川敷。
コンクリートの河岸でぼんやりと川面を見つめるけれど、ごうごうと音を立てて流れていく水をいくら見続けても、心は一ミリも動かされなかった。
「というか今日の川、やけに汚いな」
近くにある工場からなんらかの液体が放流されているのだろうか。
心なしか異臭もしてきた気がするし、制服に臭いがつくと嫌だからもう帰ろうと立ちあがる。
そのときだった。足元に一匹の黒猫がやってきたのは。
「猫ちゃん」
近寄ってくるので触ろうとしたら、すいと避けられた。
だけど足元に近づいてきては、すり寄ることなく「にゃあにゃあ」と鳴き、こちらを見上げてくる。
まるでなにかを訴えているように見えた。
お腹がすいたのかな。
わたしが足を一歩前に踏み出すと、黒猫もその分、前に進む。
そしてくるりとこちらを振り返り、またしても「にゃあ」と短く鳴いた。
「もしかして、どこかに案内したいの?」
黒猫はじっとわたしの目を見つめてくる。
満月を思わせる金色の瞳の中央には、瞳孔が縦長に伸びていた。
人を見つめることが苦手なわたしは、どうやら猫に見つめられることも苦手だったらしい。
ふい、と先に視線を逸らしたわたしの膝にぐいぐいと頭を押しつけてくる。
わかったのなら早く来い、と言わんばかりの強引さだった。
「わかった、わかったから」
ふるりと揺れる尻尾を追いかける。黒猫はようやく満足したようにふんと鼻を鳴らしたのだった。