ブルー・ロマン・アイロニー
リビングに戻ると、バスタオルを肩にかけたアンドロイドはあぐらをかいて。
我が物顔でリビングの中心に鎮座していた。
体格がよく作られているのか、筋肉の隆起した肩や、太くしなやかな腕、ほどよく割れている腹筋が目に入る。
わたしは無意識にあるマークを探していた。
「あのな、お前の今後のために言ってやる。年頃の娘が男の裸体をじろじろ見るもんじゃねえぜ」
「あなたって何用なの?……あ」
しまった、と思ったときにはもう遅く。
頭の中で留めておくつもりだった疑問が口をついて出た。
あわてて口をおさえるわたしに、アンドロイドが勝ち誇ったようににやりと笑う。
「気になるか?お?俺のことが気になってんのか?」
「っ、そんなんじゃない……いい。言わなくていい」
ふ、と。またしても笑われた。
だけど、今度のはバカにするというよりも、ほんの少しの柔らかさを含む吐息が混ざっていた。
「命令すればいいのに。そうしたら俺だって従うさ。そういうふうに作られているからな。お前、アイザック・アシモフは知ってるよな?」
「ロボット工学の三原則を作った人」
アイザック・アシモフ。
アンドロイドが普及するこの時代に、彼の名前を知らない人はいないだろう。
もうずっと昔の人。
だけどアシモフは今もなお、ロボット工学の先駆けとして多くの技術者に尊敬されている。