破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
 周辺国みんなが認める軍事大国に、まさかそんな不安があるわけなく。ラウィーニアは冗談っぽく笑って、ふわふわとした裾が返した花のように下に広がる薄紫のドレスを選び出した。

 クレメントと正式に付き合い出す前に、社交界デビューする前にお父様が私のためにと夜会用に何枚か作っておいてくれた時のドレスだ。

 私はデビューしてすぐにクレメントと付き合い出し、拘りの強い彼は出席する夜会の前には必ずドレスとアクセサリーなんかを贈ってくれたから、こうして父の用意していたドレスの出番はなかったけれど。

「それ一年前に、お父様が作ってくれたドレスなの……なんだか、今の私には子どもっぽくない? それに今から新しく仕立てる時間は、ないし」

 ここまで来て往生際悪く理由をつけて渋る私に、ラウィーニアは何とも言えない表情になった。備え付けの椅子に座っている私と、さっき彼女の厳しいお眼鏡に適った薄紫のドレスを見比べる。

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