【電子書籍化】婚約破棄された伯爵令嬢ですが隣国で魔導具鑑定士としてみんなから愛されています~ただし一人だけ溺愛してくる~
 ロード伯爵は、もう一度大きく息を吐いた。やはり、机の上の一枚の書類がふわりと浮いて、机の向こう側にハラリと落ちた。どうせなら、二度とお目にかかりたくない書類だ。
 そこに、扉の向こう側から賑やかな声が聞こえてきた。

「あなた、休憩にしましょう」

 ロード伯爵夫人が、美味しそうな焼き菓子とティーポットとカップをワゴンにのせて、それを楽しそうに押しながら部屋へと入ってきた。

「もうそんな時間か」
 席を立ったロード伯爵は、先ほど落としてしまった書類を拾い、それを手にしながらいつものソファの定位置に腰をおろす。
 伯爵の隣には伯爵夫人、そしてその向かい側に上の娘のリネーア、その隣には彼女の夫であるフラン。
 ロード伯爵には娘しかいなかったため、長女のリネーアがルーサム侯爵家の三男であるフランを婿とした。だが、この二人、貴族同士の政略による結婚ではなく、出会いの場は社交界。不思議と意気投合した二人。つまり、二人の結婚は大恋愛の末、ということ。人当たりの良いフランは今、ロード伯爵の元で彼の仕事を手伝っている。
 そして、ロード伯爵にはもう一人娘がいるのだが、その肝心の娘が今、ここにいない。

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