悪徳転生公女の他国王太子妃生存計画~それでも王太子を愛してしまいました
「誕生日?」

「ええ。マウザナイトでは、誕生日を祝うという風習があるのですわ」

これは事実だ。
オフィーリアの記憶が言っているのだから確かだ。

「そうなのか…」

「アシュトン様が誕生されたのが冬の日で、こういう雪の日だったのだと王妃様がおっしゃっていましたわ。23年後の今日。同じように雪が降っているのはとても素敵なことですわ」

「オフィーリア。これもしかして…」

「ガトーショコラというケーキです」

「俺のために作ってくれたのか?」

「はい。誕生日のお祝いとして…」

最後まで言わせてもらえなかった。

アシュトンの口にふさがれてしまったから。

たくみな舌さばきでまたおなかの奥がうずきはじめる。

まだ昼間なのに…ダメです。アシュトン様。

それに2人きりじゃないのに…
はずかしいです。

けれど、アシュトンもガトーショコラを食べたいという欲求の方が今日は勝ったらしく、すぐに離してくれて、目の前に置かれたそのケーキをまじまじと見つめながら、大事そうに一口、口に入れた。

「うまい…」

本当においしそうに食べてくれるので作り甲斐があるというものだ。
実は甘党なのだ。

「これはチョコレートだな。濃厚な風味がうまい。というよりオフィーリアが俺のために作ってくれたと思うだけでもう何もいらない」

「今日は、明日孤児院に配るクッキーも焼きましたの。あと、こちらは皆さまに」

ぴくっとアシュトンの眉がつりあがる。

「皆さま?」

「はい。ウォルター様に配っていただくようお願いして…」

「そんなものいらないぞ」

「ですが…」

「他の者に配る必要などない」

「いえでももうお願いしてしまいました」

ダメだったのだろうか。けれど、ガトーショコラはアシュトンにだけだ。他の人達にはクッキー。それでもダメ?

「殿下。わたくしたちがいただいたのは殿下のものとはちがいますよ」

補佐官のひとりがうらやましそうにアシュトンのお皿の上を見る。

「殿下のケーキはとてもなんというか…クリームものっていますし、わたしたちもそちらをいただけるなら…」

「何を言ってる。バカ者。おまえたちはそれで十分だ。心して食べろ。俺が許可する」

「は、はい!」

そのあと補佐官たちが恐縮しながらおいしいクッキーを食べたことは言うまでもない。
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