天涯孤独となったはずなのに幸せに溢れています
「3人は仲がいいんですね。羨ましいです。また仲間に入れてください」

「もちろんですよ! 秘書と聞いた時にはどうしたものかと思ったけどこんな気さくな人でよかったです。年下なんですから俺のことは大輔って呼んでください」

「私も! 私のことも蘭子って呼んでもらっていいですよ」

ふたりは少し酔っているのかとてもフランク。でも竹之内さんは気を悪くした雰囲気はなく笑っていた。彼も少し酔っているのかもしれない。

「なら大輔と蘭子ちゃんって呼ぼうかな。俺も啓介でいいよ」

「まさか。さすがの俺でも呼び捨ては……啓介さんと呼びますよ」

笑いながらそんな会話をしていると、蘭子は私のことも茉莉花ちゃんと呼んでやってと言い出す。
竹之内さんは遠慮がちに「いいのかな?」と言うので私は頷いた。

「茉莉花ちゃん、俺のことも啓介って呼んで」

「い、言えないです」

なんだか言いにくくて躊躇ってしまうと大輔くんや蘭子に促されてしまう。

「ほら、友達になったんだから名前呼ばないと。いつまでも堅苦しいままじゃ啓介兄さんだって困るよ」

大輔くんも横で頷いている。竹之内さんも期待顔で私の顔を見つめていた。
こうなったら仕方ない。

「け、啓介さん」

「はい」

「……!」

はいと言われても言葉が続かない。
私は顔が火照ってきて熱くなり、手元のお酒をグッと一口飲んだ。
するとみんなが笑い出した。

「ホント茉莉花ちゃんって可愛いよな」

「大輔、分かる? 茉莉花は可愛いのよ〜」

ふたりは私のことを揶揄うように盛り上がってしまう。
大輔くんとは小中学と一緒だったけど最後の方はほぼ喋っていない。大輔くんは野球部のエースで人当たりも良く人気者になってしまった。だからいくら小学校からの付き合いとはいえ、話しかけにくくなってしまっていた。だからこんなに話したのも10年近くぶり。あの頃と同じ屈託のない笑顔。ただ、蘭子を見る視線がなんとなく友達ではなくなったことを感じさせる。そんなふたりを見ているだけでなんとなく幸せだなぁと感じる。
< 61 / 167 >

この作品をシェア

pagetop