天涯孤独となったはずなのに幸せに溢れています
駅に着くと土曜の夜だからか飲んだ帰りのような人を多く見かける。
人が多く人混みに飲みこまれ流されそうになった。
するとさっと私を抱き寄せる手に驚き振り向くと啓介さんだった。

「茉莉花ちゃん、危ないよ」

周りの人から守るように私を抱きしめ駅の中を進んでいく。
こんなことされ慣れていない私は固まってしまう。
駅のホームに来たところでハッとした。

「啓介さんはどこの駅ですか? ここからひとりで帰れます」

すると彼は首を横に振る。

「まさか。酔ってる女の子をひとりで帰すなんてことしないよ。もちろん家まで送り届けますが何もやましいことはないから」

やましいこと……?

わ、私そんなこと思っていなかったのに。
ただ、申し訳ないと思って言ったのに反対に
下心があるのではないかと疑ったように思われてしまった。
でもそれに言い返してしまったらまるで下心を期待していたと思われてしまうの?
何が正解かわからない。
男性とこうして帰ることさえ初めての経験だし、何より女の子扱いされたこともないんだから。

「茉莉花ちゃん。俺は心配だから送り届けたいんだ。それにもっと話したいなと思ったからさ」

彼の腕の中から顔を上げると目が合った。

ドクン……

胸の鼓動が一瞬変わった。
彼を見つめると胸がギュッと掴まれたように苦しくなった。
思わず彼のシャツをギュッと握ってしまった。

「あ、電車が来た」

その声にハッとして私は手を離した。
満員の電車の中で彼は私が押しつぶされないよう周りから守ってくれた。 
よく電車でこうしてもらっている女の子を見かけていた。彼女たちが羨ましいと少しだけ思っていたが自分には縁のないことだと思っていた。それなのにまさか自分がこうしてもらえる日が来るなんて思っても見なかった。
胸の苦しさが全然治らない。
私を見下ろす彼の視線にどうしたら良いのか分からない。
彼は頭の上から小さな声をかけてきた。

「大丈夫?」

私は頷いた。
すると彼も優しく微笑むと頷いていた。
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