聖女様と老執事
最初は、子供がいたらこんなだったかなと思いながら可愛がった。
勉強や魔法や、知識だけはあった剣術を教え、知識さえもおぼつかなかった家事も教えて、一緒に料理をして大失敗したこともあった。
段々と成長して美しい青年になったスピネルに魅かれた。昔パレードで見かけた王子様よりもよほど美しいと思った。
私は孤児で、十歳の時に孤児院から教会に売られた。院長とその取り巻きが搾取しまくり豪遊している悪徳孤児院だったので、食べる物もなければ寝る場所すら怪しかった。
そんな生活で恋なんてしている余裕はなかった。
教会の生活もそうだ。最低限の食事と寝床は手に入ったが、神官たちは聖女見習いたちを人間扱いしなかった。家畜の方がマシなくらいの扱いをされ、亡くなった少女たちも大勢いた。その亡骸は、新たな魔法研究に有効活用されるからと葬儀もなく素材扱いされた。
そんな生活の中、私は死の森に幽閉されたのだ。
生きる希望もないのに、自死もできない身体に変貌していく自分に涙も出なかった。
そんな中、スピネルだけが癒しであり、ときめきであり、すべてを捧げて愛おしみたいと思える相手だった。
スピネルは当たり前のように年老いていった。
最初は明らかに私の方が歳上だったのに、もうスピネルの方が歳上みたい見えてしまう。
綺麗な金髪は段々と白髪になり、ピカピカしていた肌には皺が増えた。
それなのに、私を見る目だけは変わらない。
私を「尊い聖女様」だと見つめるその目は。
自分の歳を数えないが、スピネルの誕生日は毎年祝った。
外出もできないのでプレゼントもないが、ケーキは私が焼いた。
スピネルほど上手には焼けないのに、彼はとても喜んでくれた。
子供の時から、もうおじいさんになっても。