聖女様と老執事

 スピネルが身体を壊した。
 私が治癒魔法を使ってもさほどよくならなかった。
 スピネルは優しい口調で、「これは老いによるものですから」と諭すように言った。
 スピネルがよくない咳をするようになった。
 全身の動きが緩慢になった。
 目が悪くなったし耳も悪くなった。
 
「スピネル、あなたの次の誕生日、どんなケーキがいいかしら?」
 
 ベッドからほとんど起きられなくなった彼は、誰がどう見ても死に向かっている老人だ。
 
「私は……、もう駄目でしょう。貴女様を一人にするのは心苦しいのですが……」
 
「馬鹿なこと言わないで! あなたは私がお役目を終えるまでずっと私に仕えるの!」
 
 彼の皺だらけの手を握る。
 彼が幼い頃には毎日握っていた手だ。彼が美しい青年に成長し、気恥ずかしくて握らなくなってしまった愛おしい手でもある。
 
「リル様、私めは……欲しいプレゼントがあります……」
 
「なあに? 国王の首でも取ってくる?」
 
「……貴女様との……一夜の思い出を……」
 
 そんな若造のようなことを言うスピネルの瞳には、今まで見たことのない熱がこもっていた。
 
「……一夜でいいの?」
 
 返事の代わりに、深い口付けを落とされた。
 それからは魔力を注ぐ以外の時間、ほとんどずっとスピネルのベッドで共に過ごした。
 そう、最期の時まで……。
 
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