双子ママですが、別れたはずの御曹司に深愛で娶られました
 私は電車を乗り継ぎ、品川駅に向かう。改札を出て、一度壁際に移動してスマートフォンをバッグから出した。
 昨夜のうちにcafe soggiornoの位置や経路を確認してはいるけれど、念のためもう一度......。
 駅から徒歩で約十五分。今は一時半だから、時間には多少余裕がある。
 スマートフォンをジッと見つめる。
 楢崎さんとは連絡先を交換していない。
 もしかすると単純に忘れていただけかもしれない。けれども私は、彼はあえてこちらの連絡先を聞くことをしなかった気がしている。
 メッセージや電話は便利だし、今の時代もはやあって当然のツール。便利な反面、手軽すぎて人との心の繋がりが希薄になったりすれ違ったり、仕事でもプライベートでも自分の時間を拘束されていると感じる人もいそう。
 良くも悪くも人との距離感が近くなって、簡単に相手のテリトリーに踏み込める。また、距離を置きたくなれば容易に断絶することも......。それがいいとか悪いとかではなく、うまく利用していけばいいだけのこと。そう理解はしている。
 だからこそ、彼が気軽に私へ踏み込むような態度を取らなかったのは、なんだかじわじわと胸が温かくなる思いだった。なんとなく、人との距離をゆっくり丁寧に縮めて深めていく――そんなふうに感じていた。
 私は調べた通りの道を辿っていく。
 途中、定休日のお店の窓ガラスに映る自分の姿を見て足を止めた。
 なんか......今日ってどういう心持ちで向かえたらいいかわからなくて、服装まで悩んでしまった。しかも、社会人になってからはめっきり買い物する機会も減って、選べるほど服もなかった。そうかといって、今日の日のために服を新調するのも、まるで心待ちにしているみたいでできず、結局唯一今の時期に着られそうな服をセレクトした。
 白とブルーの草花柄のロング丈ワンピース。それにバルーンスリーブの白カーディガンを羽織ってきた。
 近所に出かける時に着るような服か、オフィスカジュアルの服くらいしかなかったクローゼットを思い出し、ついため息をこぼす。
 久しく男性と出かけたりしていない。友達とも休日に約束して会うよりも、仕事後に合流して食事したりお酒を飲んだりするほうが多い。
 今回こういう機会がやってきて、自分の私生活がどれだけ枯れていたかを思い知った。
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