双子ママですが、別れたはずの御曹司に深愛で娶られました
 別に私はまだ具体的な話が決まっているわけでもないのに、心臓が嫌なリズムで脈を打ち、得も言われぬ恐怖に飲み込まれそうだった。
 必死に動悸を落ち着けながら、鏡越しに自分を見つめる。
 その時、ふいに『人生に〝絶対〟はないぞ』と厳しく私を諭す海斗の言葉が、脳裏に蘇った。
 すぐに私はそれを打ち消すように頭を横に振って、呼吸を整えて化粧室を出る。
「お、古関じゃん!」
 歩き出すや否や、親しげに名前を呼ばれて振り返った。
「三橋くん? え、どうして」
 爽やかな短髪に適度に日焼けした健康的な肌色の彼は、三橋栄介。私の同期だ。
 彼は期待のホープで、入社後二年後にアメリカのポートランドへ赴任した。
「十月一日付でまたこっちに戻って来たんだ。よろしくな。今回は部署違うけど」
 入社当時から人懐っこくて明るい三橋くんは、数年ぶりに会っても変わらない。そのキャラクターのおかげか、ブランクからの緊張などまるで感じさせず、話しやすさも以前のまま。
「そっか。ごめん。私ちゃんと確認してなかった。配属はどこ?」
「忙しいんだな。俺はマーケティング部配属だよ。あ、近々営業部の人たちも含めて歓迎会やってくれるらしいんだけど、古関も来るだろ?」
「そうなの? 多分行ける」
「多分ってなんだよ。そこは『絶対行く』だろ~?」
「あはは。ごめんごめん」
 それぞれの部署まで話しながら向かうと、あっという間に到着する。三橋くんと別れて自分の席に行き、椅子に腰を下ろした。ノートパソコンを起ち上げ、メールを確認する。
「あ」
 つい今しがた三橋くんが言っていた歓迎会の出欠メールを見つける。クリックすると、今週の金曜日の夜に開催する旨が記載されていた。
 金曜日かあ。二部署合同なら、みんなこの日は業務も早く切り上げるんだろう。そんな中、残業もしづらいし、ここはやっぱり参加で決まりかな。
 そう思いつつ、ふとスマートフォンに目を向ける。
 雄吾さんはきっと変わらず忙しいはずだよね。歓迎会は午後六時スタートで早いし、二時間のコースだったとして終わるのは八時。最近の雄吾さんなら、まずこの時間に仕事を終えることはないし。とりあえず集計する人も早めに返事が欲しいだろうから、参加の返事をしておいて雄吾さんへは今夜にでもメッセージで伝えておこう。
 そうして私は『出席します』と幹事に返信し、仕事の準備を始めた。

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