双子ママですが、別れたはずの御曹司に深愛で娶られました
 単に深い意味なく聞かれただけかもしれないけれど、念のため私は先制して事実をさくっと伝える。
 三橋くんは、一重瞼を大きく見開いた。その様子から動揺しているのが窺える。
「そ、そっか。ちなみにどんな人? 何歳で、仕事はなにしてる?」
 終わると思っていた話題が意外にも長引き、今度はこちらが困惑してしまう。
 三橋くんの質問攻めに、思わず口を閉ざした。
 だって、どんな人かは説明できるとして、その他詳細は私の判断で第三者に伝えていいものかどうか。
 ふと、この間見た雑誌に載っていた雄吾さんが頭に浮かんだ。
 彼の家や会社の背景を考えると、私が容易に関係を口にしてはいけない気がした。
「なんでそんなこと。いいじゃない、どうでも」
 小さな声で漏らすと同時に、自虐的な感情があふれていることに気づく。
 私は今、『自分の恋人はリアルエステイト楢崎の跡を継ぐ人だ』と自信を持って言える心境にはなれない。
 どうしても、彼と私が釣り合っていないと思われそうで臆病になった。
 そんなこと、誰がどんな感じ方をしたところで、当の本人たちの問題であってなにも関係ないはずなのに。
 雄吾さんに対する後ろめたさと、自分への不甲斐なさに下唇を噛んで俯いた。次の瞬間、手を握られる。
 バッと顔をあげれば、真剣な顔をした三橋くんと目が合った。
「答えられないのは、本当はいないからじゃないのか?」
「えっ。違うよ」
「俺、入社した時から古関のこと、いいなって密かに思ってたんだけど」
 彼はもう片方の手を私の顔に近づけてきた。熱を帯びた視線と強く握られた手と、彼の動きに頭の中で警鐘を鳴らす。
 咄嗟のことで対処が遅れて、ただ身体を強張らせた、その時。
「春奈」
 その声に、思考よりも先に心臓が反応した。
 約一週間、電話越しでしか聞けなかったほどよい低音の声。リアルに聞こえてきた呼び声に胸が高鳴る。
 顔を向けるとそこにはスーツ姿の雄吾さんがいた。
 急なことで対応できない。ただ私は、疑われそうな場面に遭遇した焦りよりも、純粋に彼が目の前にいる事実に喜びを隠せなかった。
 雄吾さんは三橋くんが握る手を一瞥し、ビジネスライクに挨拶をする。
「楢崎と申します。春奈がお世話になっています」
 三橋さんは瞬時に現状を理解したようで、パッと手を放した。そして、私を見て無言で彼の正体を問いかけてくる。
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