密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
ええと、なんて紹介したらいいのかな……。

「あ、あの、こちらはその」

悩んで口ごもった矢先。

「君塚です。いつも妻が大変お世話になり、ありがとうございます」

とてもスマートに透真さんが一礼した。

つ、妻……⁉

私は目玉が飛び出るほどギョッとする。
だってまさか、三ヶ月後に離婚するのに、わざわざ結婚しているとオープンにするとは思わなかった。

正面にいる駒津屋のおじちゃんも、まるで鏡に映したかのごとく、私と同じリアクションだ。

「小さい頃から知ってる春香ちゃんが結婚したなんて、うれしいやら寂しいやら。天国の千代さんも喜んでるな! 幸せになれよ!」

駒津屋のおじちゃんは目に涙をいっぱい溜めて喜び、お祝いだと言って上等なワインを持たせてくれた。
帰り道、透真さんの両手はたくさんの食材で塞がった。

「春香さんがどれだけこの青空商店街の方々にかわいがられているか、よくわかったよ」

透真さんにからかうように言われ、私は頬が熱くなるのを感じる。

「この青空商店街は、私が生まれる前に移転してるんです。なのでみなさん家族みたいに結束力があって仲がよくて、本当に優しい方ばかりなんですよ」

目を細めた透真さんは、穏やかに微笑んだ。

マンションに帰宅して、私は早速調理に取りかかる。
小一時間でダイニングテーブルには鶏の照り焼きなど数品の料理が並んだ。

「いい匂いがするな」

椅子に腰を下ろした透真さんに、豚汁をお椀に盛って差し出した。
ふたりで向き合って座ると両手を合わせる。

「いただきます」

早速湯気が立つ豚汁を一口食べ、透真さんは押し黙った。

「ど、どうですか?」

無言に耐えられず、私はおそるおそる尋ねる。

「すまない、すごく美味しいよ。千代さんに負けてない」
「本当ですか?」
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