密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
もしかして少し薄かったのだろうか。家で作るときは祖母の健康を考えて薄味にしていた。
透真さん、私に気を遣ってくれてるのかな、と不安になったのも束の間。

「こんなに料理がうまいきみに唐揚げを振る舞っただなんて、いくら千代さんのレシピだったと言え恥ずかしくなった」

透真さんは箸を置き、気まずそうに鼻を擦る。

「そんなっ! あの唐揚げ、とても美味しかったですよ!」

本当のことなのですかさずフォローすると、透真さんは優しく頬を緩めて私を見た。その笑顔があまりにも魅力的で、胸がドキッとする。

まるで透真さんの周りだけ、星が輝いているみたい。
こんな素敵な人と毎日向かい合ってご飯を食べるなんて、平静でいられるか自信がない。
私はなるべく意識しないよう、食事に集中した。

それから透真さんはすべての料理を残さずに食べてくれた。作り甲斐があって、すごくうれしい。

「透真さんは、大学生の頃にうちのお弁当を食べてくれていたんですか?」

一緒に食器を片付けながら、私は透真さんに尋ねた。

「ああ。うちの母は全く料理をしなかったから、俺にとっては千代さんの手料理が母の味と言っても過言ではないな」
「そうなんですね。こうして祖母の味を思い出として共有できてうれしいです。なんかこういうのって、本当の家族みたいですね……」

祖母を思うとまだ悲しくてしんみりしてしまう。

けれど、透真さんの前で泣きすぎた失態の二の舞いにならないよう、私は鼻がつんとするのを一生懸命我慢した。

すると、私が運ぼうとして手にしていた食器を、透真さんがひょいっと奪った。

「俺たち、本当の家族だろ?」

揺るぎなく真っ直ぐにこちらを見つめる透真さんの目には、ぽかんとする私が映る。
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