密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
「違うんです、すごくかわいくて好きなんですけど……」

両手を胸にあて、私はうつむいた。

「好きなんですけど、なんだかその、後ろめたいというか……。私、無職でなにもしていないのに、こんなに高価なドレスを着ていいのでしょうか」

ハイブランドの有能なスタッフと自分を比べ、落ち込んでしまう。

すると気落ちする私のそばに、透真さんが歩み寄った。

「きみには俺の妻って役目があるだろ? なにもしていないわけじゃない」

試着室の大きな鏡越しに目が合う。

「この役目は、ほかの誰も代わりはできない」

背後から頭をポンとなでられ、油断したら涙が流れそうになった。

「かわいい。すごくよく似合ってる」
「……っほ、本当ですか?」
「ああ」

透真さんは、私がほしい言葉をピンポイントでかけてくれる。
まるで魔法使いみたいだ。

透真さんの優しい言葉と気持ちが心に浸透して、体がふわりと軽くなったように感じた。

このまま着用して映画館に向かうことになり、透真さんが真っ黒のカードで支払いを済ませる。ちょっと服を買ったとは思えない金額で、自分が普段買う洋服の値段より桁がいくつも多かったので、私は恐縮した。

「君塚様、本当に素敵ですよ!」

ブランド店を出るときも、スタッフが私に自信を持たせてくれる。
すると、透真さんが私の全身を今一度まじまじと見た。

「でもスカートが少し短いな。露出があるのは、俺の前でだけにしろよ」

クイッと口角を上げると、透真さんは強い眼差しで私を射貫く。
独占欲をあらわにした俺様な台詞に、きゅんと胸を掴まれた。

それは私だけではなかったようで、接客してくれたスタッフも頬を赤らめぽうっとした顔で私たちを見送った。
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