密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
透真さんが連れてきてくれたのは、有名な高級フレンチレストラン。
私はお酒に強くないし、透真さんは運転があるので食前酒はノンアルコールのシャンパンにした。乾杯し、鮮やかで美味しいコース料理に感動する。

キャビアに始まり、オマール海老のマリネに子羊のポワレなど、食べたことのない料理ばかり。
ミニャルディーズワゴンも初めてで、どれも美味しそうでまるで宝石のようだった。

「うわぁ、食べるのがもったいないです」

と口では言いながら、落ちそうになる頬に手をあてて、私はデザートを楽しんだ。

ぱくりとケーキを頬張ったとき。

「これはこれで美味しいが、やっぱり石橋仕出し店の味が恋しくなる」

正面から視線を感じて、私は咀嚼を止めふと透真さんの方を見た。すると不意打ちで、こちらに手が伸びてくる。

「ついてる」

短くそれだけ言って、透真さんは親指の腹で私の唇をキュッと擦った。

ぽかんと口を半開きにしたままの私を見て、わずかに片頬を上げて笑った。
そしてそのまま何事もなかったかのように、シャンパングラスを口もとで傾ける。

私は時間差で激しく狼狽した。
あまりにも自然に私の唇からクリームを取る仕草と、余裕に満ちた笑顔が色気にあふれていて、心音が大きくなる。

「す、すみません」
「いや。なんだか子どもみたいだな」
「えっ」

今日はずっと透真さんの言動に心拍数が上がりっぱなしだ。
浮かれてるのが恥ずかしくてうつむく。

「美味しそうに食べてくれて、うれしい。見てて飽きないよ」

長い睫毛を伏せ、透真さんは口もとでシャンパングラスを傾けた。

「……っ」

今日の私の感情はアップダウンが激しい。
透真さんの言葉に喜んだり、傷ついたり。

それはたぶん、透真さんに惹かれているからだ。

頭をなでたり、さっきみたいに不意打ちで唇に触れられたりすると、二度目に会ったときのあのホテルでの一夜を思い出して胸が苦しくなってしまう。

あの日以来、そういう関係にはなっていない。
御曹司の透真さんにとって、あの一夜も契約結婚の提案も、きっと気まぐれなんだと思う。

期間が来たら、彼の迷惑にならないように離れなくては。
あと一ヶ月半しか一緒にいられないんだ……。

早く自立しなければという思いに急き立てられながら、うれしさと寂しさが交ざり合う、複雑な感情を抱いた。



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