密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
それからの一ヶ月半の透真さんとの日々は、凪いだ海のように穏やかに過ぎていった。

ふたりでキッチンに立ち、石橋仕出し店の味を思い出して料理をして、何気ない会話があふれるダイニングテーブルで食事をする。

休日は公園で散歩したり、海へドライブに連れて行ってくれたりした。

私は日毎に、透真さんに対する感情が感謝の気持ちだけではないと気づき始めた。
男性として、透真さんの優しさ、温かさに惹かれている。

けれども、これは期間限定の契約結婚。
私は自分の気持ちに蓋をして過ごした。

仕事はなんとかカフェの契約社員に決まり、社員に登用してもらえるようがんばろうと思う。

透真さんに想定外の恋をして、毎日楽しく穏やかに生活できたことを心から感謝している。

もしも私が、祖母の財布から見つけた名刺をスルーして、透真さんに出会っていなかったら、こんなふうに前向きに生きていられなかっただろう。

初めてS・K法律事務所を訪れたあの日とは、見える景色の色が全然違う。これまではどんよりとした鈍色の雨雲がかかっていたけれど、今は明るくて気持ちも軽い。

透真さんと過ごした三ヶ月は、これから前向きに生きていくため心に温かさを注ぐ充電期間のようだった。

透真さんになにかお礼ができたらいいんだけど……。

そう考えた私は、様々な店を見て回り、雑貨屋で名刺ケースを買った。
高級ブランドは手が出なかったけれど、質のよい革製品で、シンプルなデザインがたぶん透真さんにも受け入れてもらえるんじゃないかと思った。

落ち着いた色味もきっと気に入るはず。喜んでくれるといいな。
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