密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
翌日。午後六時に君塚先生に指定された待ち合わせ場所は、有名なラグジュアリーホテル。

きらびやかなシャンデリアが美しい広くて優雅なロビーは吹き抜けになっていて、まるで異国のお城のようなクラシックで上品な雰囲気だ。

ここで唐揚げのレシピを共有するのだろうか。

というか、共有ってどういうこと?レシピを渡してくれるの?こんな高級感あふれる場所で……?
そもそもどうして君塚先生は祖母の唐揚げレシピを知っているのだろう。

謎が多すぎて首を捻りながらも華やかな装花に目を奪われていると、オーラをまとった長身の男性がこちらに歩み寄ってきた。

「春香さん、こんばんは」

上質そうな艷やかな生地の黒いスーツ姿の君塚先生は、美麗な顔立ちでわずかに微笑み、とてもスマートに一礼した。

「こ、こんばんは!」

笑顔を向けられると立ちくらみを覚える。君塚先生は今日も眩しいくらい素敵だ。

「お越しくださってありがとうございます。早速ですがお部屋にご案内します」
「へ?」

ここで唐揚げのレシピが書かれた紙を、さっと手渡してくれるのだと思っていた私の口から間の抜けた声が出た。

「あの、わざわざ個室で、ですか?」
「はい。うちのスイートルームには長期滞在用にキッチンがついてますので、そちらで調理します」

歩きながらさらりと説明され、私は面食らう。
調理する、って、こんな桁外れな高級ホテルで唐揚げを作るの?
普通にレシピを教えてくれるだけでいいのに……。

それに、『うちの』の部分が気になった。
エレベーターの前で足を止め、半歩前に立つ君塚先生の顔を見上げる。
すると、私の訝しげな視線に気づいたのか、君塚先生が前方を見据えたまま口を開いた。
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