密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
「春香さん、君塚不動産はご存知ですか?」
「え、はい。ご存知もなにも、有名な大企業ですよね」
「恐縮です」
「あ、君塚ってもしかして……」

ピンときた私は自然と手のひらを口もとにあてる。

昨日S・K法律事務所で受付の女性が、君塚先生はご実家の会社経営にも携わっていると話していたっけ。

「父が社長を務めています。ここはうちが所有するホテルです」
「は、はあ……」

すごすぎてため息しか出ない。

君塚不動産といえば、日本でも大きな不動産会社のひとつ。マンションもばんばん建ってるし、若者に人気の複合施設やファッションビルの運営としても有名だ。

この類まれに見る美しい容姿に加え、ご実家がセレブ、しかもやり手の弁護士。
ハイスペックとはまさに君塚先生のような方を指すのだろうな。

そう思って見つめていると、振り向いた君塚先生と不意に目が合った。

「これから数時間、部屋にふたりきりということになりますが、警戒しなくても大丈夫です。弁護士ですからリスキーなことはしません」
「っ!」

キリッとした顔で色気のある話をされ、そういう雰囲気に疎い私は苦笑する。

警戒なんて、全くしてなかった……。
まさかセレブで美しい君塚先生が、庶民で疲れた顔の私なんかに手を出すなんて、天と地がひっくり返っても有り得ないもの。

乗り込んだエレベーターは最上階で止まり、ふかふかの絨毯の上を歩く。部屋に着き、慣れた手付きで解錠した君塚先生が、室内に案内してくれた。
< 7 / 80 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop