密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
「わあ……」

広々とした空間に驚く。

リビングルームにキッチン、ベッドルームと続く客室は、ヨーロッパふうの上質なインテリアで統一され高級感であふれている。

窓の外には都会の高層ビル群が広がっていて、夜景に向かう前のピンク色の空が幻想的でとても綺麗。
私には、きっと何度生まれ変わっても縁遠い場所に思える。

「今、準備しますね」

君塚先生に声をかけられ、リビングの入口で直立していた私はハッとした。
スーツのジャケットを脱いだ君塚先生はシャツの腕を捲りキッチンに立つ。

「私も手伝います」

私もブラウスの腕をまくり、君塚先生の次に流しで手を洗った。

君塚先生は冷蔵庫から取り出した鶏もも肉を切り、ステンレスボウルに入れる。

「下味がポイントです」

言いながらウインクみたいに片目を細める表情が素敵すぎて、不覚にも胸がどくんと高鳴った。

「普通は醤油を使いますが、石橋仕出し店の唐揚げは白だしなんですよ」

君塚先生が自信有りげに白だしのボトルを鶏もも肉が入ったボウルに傾けた。
そして片栗粉で衣を付け、油で揚げる。ジューッという食欲をそそる音がキッチンに響き、香ばしい匂いが鼻をかすめた。

「祖母はなぜ、君塚先生にレシピを伝授したのでしょうか」

菜箸で鶏もも肉をそっと返した君塚先生に、私は背後から尋ねた。

「俺が頼みました。ドイツに留学するのでもう食べられなくなるからと」

君塚先生の横顔を見上げると、懐かしそうに目を細めている。

「そうだったんですか」

留学して、日本の味が恋しくなったら作ったりしたのかな。もしそうだとしたら、きっと祖母は喜んだだろう。

唐揚げが完成し、私が手伝ったレタスサラダと一緒にお皿に盛り付ける。

ダイニングテーブルに運び、向かい合って座ると君塚先生がグラスにビールを注いでくれた。
乾杯して喉を潤す。
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