だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

511,5.Interlude Story:Sylph

 それは、遡ること数時間前────……。

「──こんちゃーっす。あーるじっ、今暇ですー?」
「……これを見て暇だと思うとか、その目は節穴なのか」

 フィンに監視されながら仕事の山に囲まれていた時のこと。悪の最上位精霊イヴィルズが、ヘラヘラと笑いながら執務室に現れた。

(あね)さんじゃん」
「おーエンヴィーもいたかぁ。今度また一杯どうよ?」
「その時はリバースとディアルエッドも呼ぼうぜ」
「超イイじゃんそれ。久々の飲み会になりそうだ!」

 エンヴィーとイヴィルズの会話が盛り上がる。
 以前彼女が飲み比べでエンヴィーに勝ってからというものの、二体(ふたり)はよく酒を飲み交わす仲になったとか。そこに酒豪のリバースとザルのディアルエッドも加わり、この四体(よにん)は最上位精霊の中でも指折りの酒飲みサークルとなったらしい。

「……イヴィルズ。王の前でそのようなはしたない格好はするなとあれ程言いましたよね」
「フィンの旦那のケチー。アタシがどんな格好したって主は許してくれるっしょ。ねー、あるじー?」

 襟足が長い髪に、赤と青の異色瞳(オッドアイ)。髪の隙間から見える耳では、凄まじい量の耳飾りがジャラジャラと揺れている。
 超ミニ丈のレザー生地のスカートと、同生地の肩出しジャケット。網タイツの上から履くパンチの効いたロングブーツに、謎の装飾がついた(へそ)。暗めでありつつも鮮烈な化粧は歪な印象を受けさせる。

「はぁ……好きにすればいいと思うよ。お前達の服装にまでとやかく言うつもりはないからね」
「王──、貴方はやはり寛大過ぎます……」
「よっしゃ! さっすが主、話わっかるぅー!」

 フィンが額に手を当て項垂れると、それを見たイヴィルズはしてやったりとばかりに笑った。

「それで、仕事嫌いのお前がボクの所に来るなんて何事なんだ?」

 本題を促す。するとイヴィルズは途端に無邪気な笑顔を引っ込め、コイツらしい(・・・・・・)悪辣な笑みを浮かべた。

「──先日、妖精が人間の街に現れました。それも一匹や二匹ではなく、何十匹と」
「「「っ……!?」」」

 ボクもエンヴィーもフィンも、その場で息を呑んだ。
 イヴィルズは精霊の中で最も極悪で、悪辣で、性悪な女だ。その性根はどこまでも歪んでおり、ある意味(・・・・)善性の塊である妖精を悪性に堕とす快感は如何程か──とかれこれ千年以上妖精について研究、観察している生粋のイカれた精霊。
 精霊界で誰よりも妖精に詳しい女が、わざわざ報告にまで来た。それ即ち──……妖精共が何かを企んでいるも同義。

「場所が場所なだけに主にも報告しておいた方がいいかなって思ってさ」
「……一体どこに出現したんだ、妖精共は」
「姫が住んでるって街──なんだっけ、帝都? あそこに突然穢妖精(けがれ)が現れ……」
「「なんだって?!」」

 帝都という言葉が聞こえた瞬間、ボクとエンヴィーは手のひらで机を叩き立ち上がっていた。

「姫さんは……っ、姫さんは無事なのか!?」
「アタシもそこまでは……あっという間に殺されちまって、アタシも穢妖精(けがれ)を回収する事が叶わなかったし、たぶん大丈夫なんじゃないの?」
「そうだといいんだが……」

 イヴィルズの肩を掴み、エンヴィーが詰め寄る。しかしイヴィルズとて全知ではない。
 この目でアミィの無事を確かめないと。
 それに……本当に妖精が帝都に現れたのならば、ボク達の存在に気づかれた可能性が高い。つまり────アミィの身に更なる危険が迫るかもしれない!

「フィン、後の仕事は任せた。ボクはアミィの元に行ってくる。反対するなよ」
「賛同こそすれど、反対なんて。仕事よりも姫君の身の安全の確保が優先事項である事は火を見るより明らか。エンヴィーや精鋭(・・)も追って向かわせますので、王は姫君の守護に専念して下さい」
「ああ、勿論だ!」

 事の重大さを理解するフィンに見送られ、ボクは急いでアミィの元に向かったのだった……。
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