だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

512.Date Story:Mayshea

 わたしは、アミレス・ヘル・フォーロイト様が大好きだ。

 彼女がいるから、わたしは毎日頑張れるのだ。
 彼女に相応しい人間になる為の努力は何一つとして辛くない。寧ろとても楽しいぐらいだもの。
 教養だけでなく礼儀作法も身につけ、後継者としてお父さんの仕事もたくさん手伝っている。
 だからあとは──あの薬(・・・)さえ完成したら、わたしはアミレス様と結婚出来る。

 研究は少し難航しているけれど……それでも地道に、一歩ずつ完成への道を進んでいる。
 こうしてわたしが夢を諦めずにいられるのは、お父さんが紹介してくれた魔導師や薬師、そして錬金術師で編成された研究チームのおかげだ。

 ──性転換の魔法薬。
 それは、その名の通り服用者の性別をまるまる変換する薬。大衆向けの小説なんかでは導入部分で頻出する便利アイテムだ。
 わたしは、それを実際に作ろうとしている。
 法を変えるぐらいなら自分を変えた方が早い。
 同姓婚が認められないのなら、異性に(・・・)なれば(・・・)いい(・・)。なんとも単純明快な話でしょう?
 だから、幾度の失敗を重ねつつもめげずに研究を続けているのである。

 男性体を女性体へ。
 女性体を男性体へ。
 変の魔力を持つ人が羨ましくなるぐらい、人体を根本から作り替えるという行為は高難易度を極めるのだ。
 魔法薬の副作用や違和感(イレギュラー)が発生しないよう、細心の注意を払って錬金術式に組み込み、人体変換術式として成立させ魔法薬を錬成する。
 その難しさたるや……まさに、砂漠で砂金を探すような途方もない作業量だ。錬金術の心得がないわたしでも分かるような、困難が伴うものである。

「──あ、料理が運ばれて来たみたい。既にいい香りが漂ってきているわ」
「そうですね。余計にお腹が空いちゃいます」
「ふふ、確かにそうね。気を抜いたら腹の虫が鳴いてしまいそう」

 二人で一つのテーブルを囲み、料理の到着を待つ。
 場所は港町ルーシェが一角にあるシャンパー商会傘下の高級レストラン。
 そこで、わたしとアミレス様は軽く食事をすることにした。
 マクベスタ様や聖人様との無言の一時間を耐え抜き、ようやく訪れたわたしの番! 
 いかにしてアミレス様と戯れたものかと考えていた時、アミレス様が小腹が空いたと仰ったので、それならばと近場のレストランに入った。
 その後二人席に通され、メニューをじっくりと眺めるアミレス様を眺めつつ、わたしは長々と物思いに耽っていたというわけだ。

 あ〜〜っ、今日のアミレス様も本当に麗しいわぁ〜〜〜〜!
 カイル王子を脅し──ごほんっ、彼に丁重に頼み込みアミレス様の『写真』を戴いたから、毎日そのご尊顔を拝見させていただいてはいるのだけど。
 やっぱり、本物は格別だ。
 まず輝きが違う。どれだけ宝石を美しく加工しようが、絶対にこの輝きには敵わない。
 妄想の中では何度もわたしの名を読んでもらい、あんな事やこんな事もしてもらったが……現実での呼び掛けと微笑み、そして触れ合い! もう最高!!

 お父さんの手伝い兼後継者教育の一環で日々商会や伯爵家の仕事に関わっている為、わたしの毎日は予定でいっぱい。
 それでもなんとかアミレス様と過ごせる時間を捻出し、ほんの一目だけでも……と東宮に通う日々。
 そんなわたしに降り注いだ天の恵みに等しき今日という日。アミレス様のお仕事に関わっててよかった! この一件を任せてくれてありがとう、お父さん! お母さん!

「……メイシア? 早く食べないと冷めちゃうわよ?」
「は、はい! 食べます!」

 普段と違い、花のような紫色に染められたアミレス様の髪をじっと見つめながら、運ばれてきた料理を口に運ぶ。
 ゆっくりと咀嚼しては飲み込み……と一連の動作を繰り返していたら、何やらアミレス様の手が止まっており、その視線はわたしに注がれていた。
 もしかして顔に何かついてるの? やだ、アミレス様の前でそんなの恥ずかしい!
 醜態を晒した可能性に顔が熱を帯びはじめた頃、アミレス様の口がおもむろに開かれた。

「前から思ってたけど、メイシアの一口ってちっちゃいよね。小動物みたいで可愛い」

 なっ────!?
 アミレス様はまたそうやってさらりと人を褒める!!
 本当に人たらしなんだからアミレス様は! でもそんなところも好き!!

「そうやってわたしを可愛いと仰ってくださる時のアミレス様のお顔こそ、本当に可愛いらしいですよ」

 つとめて平静を装い、褒め言葉には褒め言葉で返す。
 ……わたしだけに限らず、アミレス様は誰かを褒める時──決まって、慈しみに溢れた幸福そのものとばかりの微笑みを浮かべる事が多い。
 その笑顔に何度見蕩れた事か。
 その笑顔がわたしのものになればいいと、何度月に願った事か。
 でも、それは叶わない。アミレス様がみんなの(・・・・)アミレス様である限り、決して。

「……──へっ? いや、いやいや……メイシアの方がずっと可愛いよ」

 アミレス様がぎこちない表情で頬を赤らめ、僅かに視線を泳がせる。
 もしや、照れた……?
 あのアミレス様が、照れていらっしゃる。
 なんということでしょう────可愛いすぎるわ!!

「そんな事はありません! アミレス様がお美しく可愛いらしいのは全世界共通認識の自然の摂理です!」
「急にどうしたの?!」

 その疑惑は以前からあったが、今日確信に変わった。どうやらアミレス様は──褒められるのにめっぽう弱いらしい。
 そうと分かればとことん褒めよう。
 気合を入れて語り出したところ、アミレス様は慌てた様子で「メイシア」「料理食べようよ」「ねぇ、もうやめない?」とわたしを止めようとした。
 しかし今のわたしは止まれない(・・・・・)
 アミレス様のあんなにも可愛い姿を見て、わたしもそれなりに興奮していたのだ。

 アミレス様との貴重な一時間を彼女を褒め倒すのに費やし、わたしが妄想(よてい)していた戯れなどは実現しなかった。
 ……でも、それよりもずっといいものが見れたからいいや。
 アミレス様とのいちゃらぶ時間はまたの機会に。
 それまで、わたしは言語化能力でも鍛えておこうかな、なんて。
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