大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
「それでは、別荘へお連れいたします」
佐久間の運転する車に乗るように言われたが、詩織はその前に寄って欲しい場所があると伝えた。
「どうしても、寄らなくちゃいけないんです」
「わかりました。場所を教えてください」
詩織は保育園に電話を入れてから車に乗った。
そして佐久間におおよその場所を伝えたが、病院の近くにある保育園まではすぐに着く。
駐車場に車を停めてもらうが、佐久間はここになんの用があるのかと思っていることだろう。
「ここで待っていてください」
詩織は先に降りて、翔琉のお迎えに急いだ。
さっき電話を入れてこれから迎えに行くと伝えたばかりだから、園でも慌てているだろう。
「保育園?」
佐久間もゆっくりと車から降りてきた。
門にかかる『保育園』の文字が気になるようだ。
詩織は職員室に顔を出して予備のチャイルドシートを借りた。
「急に申し訳ありません」
「いいんですよ。これがないと車に乗せられませんからね」
無理をお願いしたことを詫びてから、翔琉のクラスに急いだ。
「ママ~」
詩織の姿を見つけて、まだ通園バッグの準備が終わっていないのに元気いっぱいに手を振っている。
「翔琉!」
思わず人差し指を唇にあてて、静かにという合図を送る。
えへへと笑っていたが、翔琉はすぐにバッグを持って教室から飛び出してきた。
「ママ~!」
詩織はギュッと抱きしめてから、翔琉と手をつないだ。小さな小さな手だが、温かい。
「翔琉、びっくりさせちゃうことがあるんだ」
「なあに?」
「おそとに出てからのお楽しみ」
園舎から出ると、門のところで立ちつくしている佐久間が見えた。
黙ったまま、詩織と翔琉が歩いて近づくのをじっと見ているようだ。