大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
「詩織」
やはり、瞬の瞳は暗かった。
以前の強い光を放つような、力が漲っていた目ではない。
あの事故が彼を変えてしまったのかと思うと、詩織の胸は締めつけられ
「瞬さん……」
「会って、キチンと話したかった。リハビリの前に少し話をさせてくれ」
「私も話があるの……」
詩織は瞬の前で、ぴたりと足を止めた。
するとリビングの入り口で大人しくしていた翔琉がタタタッと瞬の前に駆け寄ってきた。
「コンニチワ!」
瞬は目を見開いて固まっている。いきなり元気な男の子が目の前に現れたのだから無理もないだろう。
「翔琉って名前を付けました」
「詩織……この子は?」
「この十月で二歳になりました」
「詩織、この子は、俺の?」
「あなたの子です」
瞬は迷いもなく翔琉と目線を合わせるためにソファーから立ち上がり、足が痛むだろうにしゃがみ込んだ。
「カケルって言うのか」
「うん!」
「元気な声だ」
それだけ言うと、瞬はもう言葉が続かないようだ。翔琉の顔をじっと見つめている。
「ママ、だれ?」
男の人に慣れていない翔琉は、詩織の足にしがみついてきた。
半分身体を隠して、照れくさそうに瞬を見ている。
「翔琉の……」
詩織は迷った。この場で『パパ』と言っても瞬は受け入れてくれるだろうか。
だが、詩織の返事より瞬の方が早かった。
「パパだよ」
「パパ?」
「君の、パパだ」
翔琉は意味がわからなくて、『ふうん』と気のない返事だ。
その様子を見て、瞬は翔琉の頭を撫でた。
「いい子だ」
いきなり『パパ』だと言われても、翔琉には実感がわかないのだろう。
頭を撫でてもらうのは嬉しいようだが、まだ詩織にしがみついたままだ。
詩織を責めるでもなく、荒れることもなく淡々と瞬は翔琉を受け入れている。