大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
「さ、翔琉くん。おじさんとおやつを食べようか」
また姿を見せた佐久間が、タイミングよく翔琉を誘ってくれる。
「うん!」
おやつという言葉に、翔琉はトコトコと佐久間の方へ歩いて行った。
「しばらくお預かりしますね」
そう言うと、佐久間は翔琉の手を取ってリビングから出ていった。
詩織は心は乱れていた。
瞬はなにも言わず翔琉を自分の子だと受け入れてくれたが、彩絵とは今どうなっているのか知るのが怖かったのだ。
「どうして俺のそばからいなくなった?」
「え?」
瞬はもう一度ソファーに座り直している。
膝のあたりを触っているから、しゃがんだときに痛めたのかもしれない。
思わず瞬の足元から顔に視線を上げると、彼はじっと詩織を見ていた。
暗いまなざしに捕らえられた気がして、詩織は身動きがとれない。
いつも、どうしても、彼との視線はお互いを引きつけ合うのだ。
「それは……私は、彩絵とあなたが結婚するのかと思ったから」
「まさか! 君には待ってくれといっただろう?」
「でも、あの日はお義母さまたちみんなが彩絵のことを……」
思わず涙が出そうになった。
心の奥に押しやっていたあの夜の記憶が蘇ってくる。
婚約者のように大事にされていたのは自分ではなくて彩絵だった。
それを見ているのが寂しくて辛くて、逃げるように病院から飛び出したのだ。
「彩絵は、『大ケガをして傷だらけの男はイヤだ』と言って君は家から出ていったと」
「まさか! そんなこと言ってないわ!」