大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした


彩絵がそんな風に詩織のことを話していたなんて信じられなかった。

「彩絵はどうしてそんなことを……」

だが、ようやく彩絵が詩織に言った『ゴメンね』の意味がわかった気がする。
彩絵は周りの人たちが誤解しているとわかっていたのに、受け入れてしまった。
たぶん、恋人は詩織だと気がついていたのだろう。
それなのに自分が瞬の恋人のように振舞ってしまったから、詩織に謝ったのだ。

黙り込んだ詩織の悲し気な顔を見て、瞬も悟った。
詩織も、まさか実の姉に裏切られるとは思っていなかっただろう。

「彩絵が噓をついたんだな。義母と彩絵の思惑が一致してしまったんだ」

瞬は一度深く息を吐いた。

「理学療法士の仕事に誇りを持っていた君らしくない言葉だと思っていたよ」

瞬はあの夜にどうして誤解が生まれたのか、拓斗や義母から聞いた話をし始めた。

「そもそも、義母が間違えたんだ。義理の仲の俺と上手くいってなかったから、ここぞとばかり気が焦ったんだろう。麻酔から覚めた時に婚約者を連れてきていたら自分の母親としての立場がよくなると考えたらしい。俺が持ってた指輪のイニシアルを見て、『S・K』は彩絵だと勝手に思い込んでいた」

「指輪……」

「あの日は、君にプロポーズするつもりだった」
「え?」

「だが、俺が目先の仕事にこだわって君の存在を黙っていたことが誤りだった」

瞬は座ったまま、詩織に手を指し伸ばした。

「ボロボロの俺は、もうイヤか?」

「瞬さん」
「もう一度、やり直したい。そのためにここに来たんだ」



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