大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
詩織はそっと瞬の手を取って、彼の前に跪いた。
その頬には涙が流れている。
「私こそ、ごめんなさい。あなたは彩絵が好きなんだと……あなたの恋人は私じゃなかったんだと混乱して逃げ出してしまった」
「俺の傷を嫌ったわけじゃないんだな」
「もちろんよ!」
瞬は頬の傷あとを一番気にしていたのだろう。
「君に会って確認するまで自信が持てなかった。あれほど引き合っていた絆が簡単に壊れてしまうのかと思うとやりきれなくて」
ホッとしたのか、瞬の顔から緊張が消えて優しい表情になってきた。
ゆっくりと彼の手が詩織の頬に触れてくる。
「ああ、詩織だ」
「瞬さん」
詩織はそっと彼の胸に顔を埋めた。
硬くて分厚くて、詩織をいつも抱きしめてくれた時に触れていた胸だ。
瞬の手がそっと詩織に上を向かせる。
「君に嫌われて、忘れられたと思ってきたが……俺の子を大切に育ててくれていたんだな」
「大切なあなたの子だもの」
「キスしてもいいか」
「聞かないで……」
詩織の返事を聞くまでもなく、瞬の唇がそっと詩織の唇を塞いだ。
かつての強引なキスではない、柔らかくて優しいキスだ。