大嫌いと言われた元カレに再会したら、息子ごと溺愛が待っていました
「あ……お先に、失礼します」

私の隣に立ったのは、会えないかなと期待していた人、拓也だ。彼はビジネスバッグを手にしている。外での仕事だろうか。けれど、一介の派遣社員が役員である彼に聞いていい内容とも思えず押し黙る。沈黙に耐えきれなくなったころ、エレベーターが到着した。

「あの……代わります」
「いや、いい」

先に入り、ボタンを押して待っていようかと思ったのに、拓也は私より早くエレベータに入り、ボタンを押す。どうやら拓也は地下一階の駐車場に行くようだ。もしかしたらもう帰るのかもしれない。

(でも、専務がやることじゃないでしょ……)

昔から、私と二人でいるときエレベーターに乗り込むと、誰も中にいないときは操作盤の前に彼が立ってくれていた。エレベーターを降りて手を繋いだことまで思い出し、頬が熱くなった。
彼は、私が昔の恋心をいまだに忘れられないなんて思ってもいないだろう。

「懐かしいな。昔、かっこつけたくて必死だった。たかがエレベーターなのに、俺は……十年前となにも変わってない」

拓也は自嘲するように笑った。私はそんな彼になんと言えばいいのかわからなかった。どうしてそんな話をするのか。昔の話を持ち出して恨み言でも言いたいのか。そう思ったが、宙を見つめる拓也の瞳が切なげで、言葉を返せなかったのだ。
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