婚約者の浮気相手が子を授かったので
「まだ、婚約の身だからです。結婚したわけではありませんから。結婚するまで、あそこのテーブルはあのままです」
「だったら、寂しく一人で寝ろと?」
「そうですね」
「う、ぐぅ……。まあ、いい。結婚後には蜜月があるからな。それまで我慢しておく」
 エルランドが悔しそうに顔を歪めていた。
 彼への気持ちに気づいたばかりのファンヌにとって、まだまだエルランドからの気持ちの全てを受け止めるような準備ができていないのだ。
 だから、あそこのテーブルはあのまま置いておく。それが、ファンヌにとっての心の準備のような位置付けの存在。
 きっと彼の全てを受け入れることができるようになったら、あそこからテーブルが消えるのだろうと思っているのだが、それにいつになるのかはファンヌ自身もわからない。
「お茶をお持ちしました」
 扉を叩いて、ワゴンを押して部屋に入ってきたのはショーンであった。
「坊ちゃん。長年の思いが成就したため、ファンヌ様と共にいたい気持ちはわかりますが。もう少し節度をもって、接してください。つまりですね、ファンヌ様との距離が近すぎです。まさか、膝の上に乗せようとか、そんなことはお考えになっておりませんよね?」
 やはり、彼との距離は近かったようだ。
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