結ばれてはいけない御曹司に一途な想いを貫かれ、秘密のベビーごと溺愛されています
「そう思っているのなら、とっくに襲っているでしょう?」

そう返してきた彼女は、そこそこふてぶてしくもあり、おもしろい。

名前を尋ねられた俺は、ファーストネームで答えた。加えて、最高級のスイートルームではなく、最下層のクラシックスイートに宿泊していると偽る。

ラストネームは明かしたくない。言えば大抵の女性は目の色を変えて纏わりついてくるので面倒だ。

そもそも俺は家業を継ぐつもりがないし、家名に縋りたくもないから、実家やら資産やらをどうこう言われるのは不本意だ。

官僚として財務省に入ったのも、家を出て自立するため。

同じく家業を継ぐ気のない兄と、家督を押し付け合うようなかたちになってしまったが――いざとなれば兄が継ぐだろうと気楽にかまえている。

一方、彼女は『綿来菫花』と名乗った。綿来といえば製鉄業の一族として有名だ。

どうやらそこそこのお嬢様のようで、狙っている輩が多いと想像がつく分、余計に危なっかしく頭を抱えた。

彼女は身分など気にした様子もなく、キラキラと目を輝かせながら俺に話を振ってくる。それも『社会勉強』なのだとか。

――本当になにも知らない純粋なお嬢様なんだな。

話しているうちに、彼女の生い立ちが見えてきた。

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