結ばれてはいけない御曹司に一途な想いを貫かれ、秘密のベビーごと溺愛されています
安堵からふたりまるごとぎゅっと抱きしめる。子どもと女性のふたり暮らしは、こんなに危ういものかと、あらためて思い知った。

やがて遠くからパトカーの音が聞こえてきた。犯人を引き渡さなければと、俺は立ち上がろうとするが――。

「らめっ!」

杏花が俺のスラックスをきゅっと掴み引き留める。だめ――行くなと言っているのだろうか?

「杏花、もう怖くない。お巡りさんが来たんだ」

「らめ。いっちゃ、らめ」

ふと杏花を見ると、意志の強い、凛々しい目をしている。怖い、行かないで――そんな怯えている人間がするような目ではなく、違和感を覚えた。

杏花は怖がっているわけではない……?

「ママといっしょ。ママ、まもって」

たどたどしい言葉を聞いて、俺はようやく理解した。

杏花が菫花に縋りついているのは、自分が怖いからではない。母親を守ろうとしていたのだ。

ママのそばにいてやってほしい。どこにも行かず、ママを守ってくれ――そう言いたいのだろう。

菫花も杏花の言わんとしていることがわかったのが、「杏花……」と複雑な目で娘を見つめた。

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