結ばれてはいけない御曹司に一途な想いを貫かれ、秘密のベビーごと溺愛されています
「俺は菫花の隣にいて、ようやく安らぎを得られた。だからこれからも、ずっとそばにいてほしい。彼女のように表裏がない、真っ直ぐで、純真な女性とともに過ごしたいんだ」

そう言ったところで、理仁さんは「……いや、違う」と首を横に振る。

「彼女のように、ではない。きっと菫花でなければダメなのだろう。彼女こそが俺の選ぶパートナーだ」

三原さんの体から力が抜け、肩からバッグのストラップがずり落ちた。

血の気を失った顔。その表情から読み取れるのは、先ほどのような怒りではない。

哀しみ、そしてあきらめ。希望がないと知ったときの虚ろな表情だ。

「すまないが、縁談は断らせてくれ」

理仁さんの言葉に、三原さんはただうつむく。

やがて――。

「失礼したわ」

気が済んだのか、あるいは、これ以上なにを言っても無駄だと悟ったのか。

そう一言だけ残し、私たちに背を向けた。静かな足取りでマンションの正門を出ていく。

三原さんのうしろ姿を見送ったあと、私は理仁さんを覗き込んだ。

「……これでよかったんですか?」

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