結ばれてはいけない御曹司に一途な想いを貫かれ、秘密のベビーごと溺愛されています
杏花を抱いて揺らぐ心を落ち着ける。杏花は幼いながらも私の異変を感じ取り「ママー?」と不思議そうな声をあげている。

理仁さんはしばらく私を観察していたが、ふと目線を逸らし、わざとらしく切り出した。

「杏花はもうすぐ三歳か。今年の秋には、七五三だな」

「え……」

そういえばすっかり忘れていた。生まれてすぐのお宮参りのときは、初穂料すら用意できないほど貧乏で、簡単にお参りをするだけで済ませてしまったんだっけ。

七五三となると、そうはいかない。一生の思い出だ、ちゃんとしたお着物を着せて写真を撮ってあげなければ。だが、この出費は痛い。

「俺が一緒なら、とびきりかわいい着物を準備してあげられるんだが。それとも、杏花はワンピースの方がいいかな?」

理仁さんの言葉にぎくりと身を固くする。足もとを見られている……? この住まいを見れば、生活費がかつかつなことくらいわかるだろう。

「レジャーには連れていってあげている? 家族旅行は脳の発達や情操教育にもいいと聞く。夏に向けて海やキャンプもいい」

――正直に言うと、杏花は一度も旅行に行ったことがない。

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