結ばれてはいけない御曹司に一途な想いを貫かれ、秘密のベビーごと溺愛されています
里帰りすらできないのだ。子どもを連れているところを藤ヶ音家の人間に見られでもしたら、送金を止められてしまうから。

「俺が杏花の父親に代わって、家族旅行をプレゼントする。まだ小さな杏花には、父親役が必要だろう?」

理仁さんが不敵な笑みを携え、私を覗き込む。

「菫花。君が少し妥協するだけで、杏花に幸せな思い出を作ってやれるんだ」

心の中の天秤ががくんと大きく振れる。

「男女の恋愛なんて、くっついたり離れたりは日常茶飯事だ。菫花たちの生活が安定して俺がいらなくなったら別れればいい。それまで俺を利用したらどうだ? 杏花のために」

最後のひと言に感情が揺さぶられる。

「理仁さんは、それでいいんですか? お金のために利用されて、捨てられるなんて――」

「かまわない。菫花と繋がっていられるなら、なんだっていい」

あまりにも献身的なひと言に動揺する。

そうだ。理仁さんは昔からこういう人だった。なんの見返りもなく、私を正しい道筋へ導いてくれる。そして驚くほどさらりと愛をささやく。

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